日本の美しい音色、横笛。その澄んだ響きは、お祭りや歌舞伎、そして静かな調べを奏でる雅楽など、様々な場面で私たちの心を惹きつけてきました。「なんだか難しそう…」「どんな種類があるの?」そんな風に思っている方も多いのではないでしょうか。この記事では、特定の楽器をおすすめするのではなく、横笛そのものの魅力や、これから始めるための基本的な知識を、できるだけ分かりやすく、そして詳しくご紹介します。この記事を読み終える頃には、きっとあなたも横笛の奥深い世界に一歩踏み出したくなっているはずです。さあ、一緒に横笛の扉を開けてみましょう!
横笛とは?その尽きない魅力に迫る
まずは「横笛って、そもそも何?」という基本的なところから見ていきましょう。知れば知るほど、その魅力の虜になりますよ。
横笛の定義と悠久の歴史
横笛(よこぶえ)とは、その名の通り横に構えて息を吹き込んで音を出す管楽器の総称です。同じように横に構える楽器として西洋のフルートがありますが、日本の横笛の多くは「竹」などの自然素材から作られ、歌口(うたぐち)と呼ばれる穴に直接息を吹きかけることで音を出します。このシンプルな構造が、かえって奥深い表現力を生み出しているんです。
その歴史は非常に古く、日本では古墳時代から存在していたと言われています。奈良時代に中国大陸から伝わった雅楽で使われる「龍笛(りゅうてき)」や「高麗笛(こまぶえ)」、平安時代に完成した「神楽笛(かぐらぶえ)」、そして室町時代に能楽で使われる「能管(のうかん)」、江戸時代には庶民の楽器として「篠笛(しのぶえ)」が広まりました。お祭りのお囃子や民謡、歌舞伎のBGMなど、様々な形で日本の文化を彩り、人々の暮らしと共にあった楽器なのです。
心に響く、奥深い音色の秘密
横笛の最大の魅力は、なんといってもその心に染み入るような美しい音色です。なぜあんなにも魅力的な音が出るのでしょうか。秘密の一つは、息の吹き込み方にあります。フルートのようにキー(ボタン)で音程を変えるのではなく、指で直接穴を押さえるシンプルな構造のため、息の強さや角度、唇の形(アンブシュア)を少し変えるだけで、音の高さや表情が豊かに変化します。この繊細なコントロールが、まるで人が歌っているかのような、温かみのある表現を可能にするのです。
また、主材料である「竹」も音色の秘密に大きく関わっています。竹は自然のものですから、一つとして同じものはありません。太さ、節の間隔、身の厚さなどが微妙に異なるため、作られる笛も一本一本が個性を持っています。それが、画一的ではない、温かく深みのある音色を生み出す源泉となっているのです。まさに、世界に一つだけの自分の音を奏でられる楽器と言えるでしょう。
横笛を始めることで得られる嬉しいこと
横笛を趣味にすると、演奏が上手になる以外にも、たくさんの良いことがありますよ。
- 日本の伝統文化に深く触れられる
前述の通り、横笛は日本の様々な伝統芸能や文化と密接に関わっています。笛を学ぶことは、その背景にある歴史や文化を知るきっかけにもなり、日本の良さを再発見できます。 - 腹式呼吸で心身リフレッシュ
笛を吹くには、お腹から息を出す「腹式呼吸」が基本となります。この腹式呼吸は、深くゆったりとした呼吸を促し、リラックス効果が期待できると言われています。忙しい日常の中で、笛の音色に耳を傾けながら深く呼吸する時間は、最高の癒やしになるかもしれません。 - 指先を使って脳を活性化
指孔を正確に、そして素早く押さえるためには、指先を繊細に動かす必要があります。指先は「第二の脳」とも言われるほど神経が集中している部分。指を動かすことは、脳にとって良い刺激になると言われています。 - 一生付き合える趣味になる
横笛は年齢を問わず、何歳からでも始められる楽器です。そして、その表現は非常に奥深く、「ここまでやれば終わり」というゴールがありません。一生を通じて探求し、成長し続けられる素晴らしい趣味になるでしょう。
自分に合うのはどれ?横笛の種類を知ろう
「横笛」と一口に言っても、実はたくさんの種類があります。ここでは代表的な横笛をいくつかご紹介します。それぞれの特徴を知ることで、自分がどんな音を出してみたいか、どんな音楽を演奏してみたいか、イメージが膨らむはずです。
龍笛(りゅうてき) – 天に昇る龍の鳴き声
龍笛は、主に雅楽(ががく)で使われる横笛です。雅楽の中でも唐楽(とうがく)というジャンルの演奏で主旋律を担当することが多く、その名の通り「天に昇る龍の鳴き声」に例えられる、力強く伸びやかな音色が特徴です。息を強く吹き込むと非常に大きな音が出るため、広い空間でもよく響きます。管は比較的太く、指孔は7つ。雅楽という厳かでスケールの大きな音楽の世界に興味がある方には、ぴったりの笛かもしれません。
能管(のうかん) – 幽玄の世界を彩る笛
能管は、その名の通り能楽(のうがく)で使われる横笛です。また、歌舞伎の下座音楽(げざおんがく)でも活躍します。能管の最大の特徴は、他の笛にはない「喉(のど)」と呼ばれる部品が歌口と指孔の間に入れられていることです。この「喉」があるために、一般的なドレミの音階を正確に吹くことが難しく、息を強く吹き込むと「ヒシギ」と呼ばれる非常に甲高い、独特の音が出ます。この世のものとは思えないような鋭い音色が、能の幽玄な世界観を創り出す重要な役割を担っているのです。特定の音階に縛られない、自由で表現力豊かな演奏をしたい方に向いています。
篠笛(しのぶえ) – 最も身近な日本のメロディー
篠笛は、数ある横笛の中でも最もポピュラーで、多くの人に親しまれている笛と言えるでしょう。お祭りのお囃子で聞こえてくるピーヒャラという音色や、民謡、長唄、獅子舞など、様々な場面で使われています。構造がシンプルで扱いやすく、日本の童謡やポップスなどを演奏する人も増えています。非常に種類が豊富で、目的によって使い分けられるのが大きな特徴です。これから横笛を始めたいという初心者の方にとって、最初の選択肢になることが多い笛です。
唄用(うたよう)と囃子用(はやしよう)の違い
篠笛は、大きく「唄用」と「囃子用」に分けられます。「唄用」は、指孔の大きさが均等に近く、現代の音楽で使われるドレミの音階(平均律)に近い音が出るように調律されています。そのため、童謡や民謡、ポップスなど、メロディーを正確に演奏したい場合に適しています。一方、「囃子用」は、古典調とも呼ばれ、指孔の大きさが不均一です。特定の音階にきっちり合わせるというよりは、昔ながらの指使いで独特の雰囲気や響きを出すことを目的としています。お祭りのお囃子などで使われるのは主にこちらです。どちらを選ぶかは、どんな曲を吹きたいかで決まります。
「〇本調子」って何のこと?
篠笛を探していると、「六本調子」や「八本調子」といった言葉を目にします。これは笛の「キー(調)」を表す数字で、数字が大きくなるほど管が短くなり、全体の音が高くなります。逆に数字が小さくなるほど管は長くなり、音は低くなります。どの調子を選ぶかは、演奏したい曲や、一緒に演奏する他の楽器との兼ね合いで決まります。一般的に、初心者の方は「八本調子」か「七本調子」あたりが、音が出しやすく、独奏で楽しむのにも向いていると言われることが多いようです。
神楽笛(かぐらぶえ) – 神様に捧げる優雅な調べ
神楽笛は、宮中で行われる神事の際に演奏される御神楽(みかぐら)で使われる横笛です。龍笛よりも少し長く、細身の管が特徴です。指孔は6つで、龍笛よりも素朴で優雅な、澄んだ音色を奏でます。その名の通り、神聖な儀式で使われる特別な笛であり、雅楽の中でも特に古い形式を伝えていると言われています。その音色は、聞く人の心を洗い流すような清らかさを持っています。
高麗笛(こまぶえ) – 大陸から伝わった軽快な音色
高麗笛は、雅楽の中でも高麗楽(こまがく)や東遊び(あずまあそび)で使われる横笛です。朝鮮半島から伝わった音楽を起源としています。龍笛よりも一回り短く細い管で、指孔は6つです。そのため、龍笛よりも音域が高く、軽快で少し悲しげな響きを持つのが特徴です。龍笛が主役の唐楽とはまた違った、独特の雰囲気を醸し出します。高麗楽では、高麗笛が主旋律を担当します。
| 種類 | 主な用途 | 特徴 |
| 龍笛 | 雅楽(唐楽) | 力強く伸びやかな音色。指孔は7つ。 |
| 能管 | 能、歌舞伎 | 「喉」があり、独特の甲高い音(ヒシギ)が出る。 |
| 篠笛 | 祭り囃子、民謡、ポップスなど | 最もポピュラー。唄用と囃子用、多くの調子がある。 |
| 神楽笛 | 雅楽(御神楽) | 龍笛より長く細い。素朴で優雅な音色。指孔は6つ。 |
| 高麗笛 | 雅楽(高麗楽) | 龍笛より短く細い。高い音域で軽快な音色。指孔は6つ。 |
失敗しない横笛の選び方(初心者向け)
さて、横笛の種類がわかったところで、次はいよいよ「最初の1本」をどう選ぶか、というお話です。繰り返しになりますが、ここでは特定の商品をおすすめするわけではありません。あくまで、ご自身に合った笛を見つけるための「考え方」や「ヒント」として参考にしてくださいね。
最初の1本、どういう基準で考える?
たくさんの選択肢があって迷ってしまうと思いますが、いくつかの軸で考えてみると、自分に合ったものが見えてきます。
始めたい音楽ジャンルで選ぶ
これが一番分かりやすい選び方かもしれません。「雅楽をやってみたい!」と思ったら龍笛、「お祭りに参加したい!」なら篠笛の囃子用、というように、自分が演奏している姿を想像してみるのが一番です。もし「特にジャンルは決めてないけど、知ってる曲を吹いてみたい」というのであれば、ドレミ音階が出しやすい篠笛の唄用が候補になるでしょう。
素材で選ぶ(竹、木、プラスチックなど)
横笛の素材は音色や扱いやさに大きく影響します。
- 竹製
伝統的な横笛の多くがこの素材です。自然素材ならではの温かみのある音色と、一本一本違う個性が魅力。ただし、乾燥や湿気に弱く、割れてしまうこともあるため、後述するお手入れが欠かせません。まさに「育てる」感覚で付き合える素材です。 - 木製
竹に似た温かい音色を持ちつつ、竹よりも品質が安定していることが多い素材です。楓(かえで)などが使われることがあります。 - プラスチック・合成樹脂製
最大のメリットは、価格が手頃で、非常に丈夫なこと。温度や湿度の変化に強く、割れる心配もほとんどありません。水洗いできるものもあり、お手入れが非常に楽です。音色は竹製に比べると少し響きが少ないと感じるかもしれませんが、練習用としては十分すぎる性能を持っています。気軽に始めたい初心者の方には心強い選択肢です。
調子(キー)で選ぶ(篠笛の場合)
篠笛を選ぶ場合、前述の「〇本調子」というキーを選ぶ必要があります。一人で好きな曲を吹いて楽しむのであれば、どの調子でも問題ありません。しかし、教則本や楽譜は「八本調子」を基準に書かれていることが多いため、独学で始める場合は「八本調子」を選ぶと、教材が見つけやすいというメリットがあります。また、比較的管が短く指孔の間隔が狭いため、手が小さい方でも押さえやすいかもしれません。
唄用か囃子用か(篠笛の場合)
これも篠笛を選ぶ際の重要なポイントです。J-POPやアニメソング、童謡など、知っているメロディーを吹きたいのであれば、迷わず「唄用」を選びましょう。「囃子用」は特定の地域のお囃子などで使われる独特の音階なので、ドレミで曲を吹くのには向いていません。まずは「唄用」で笛に慣れてから、興味に応じて「囃子用」に挑戦してみるのが良いでしょう。
購入前にぜひ確認してほしいこと
「これにしよう!」と決める前に、いくつか確認しておきたいポイントがあります。焦って買ってしまうと、後から「しまった!」となることも…。
もし可能であれば、楽器店に足を運んで実物を見てみることをおすすめします。実際に手に持ってみると、重さや太さ、指孔の感触などがよく分かります。店員さんに相談すれば、色々な情報を教えてもらえるかもしれません。また、もし周りに横笛を吹いている経験者や、教えてくれる先生がいるのであれば、これほど心強いことはありません。どんな笛が良いか、ぜひ相談してみてください。インターネットの情報はとても便利ですが、それだけで全てを判断せず、できるだけ多角的に情報を集めることが、失敗しない笛選びのコツです。
どのくらいの予算を考えればいい?
横笛の価格は本当にピンからキリまであります。数千円で手に入るプラスチック製のものから、職人が丹精込めて作った何十万円もするような芸術品まで様々です。初心者が最初の1本を選ぶ場合、無理に高価なものを買う必要は全くありません。まずは練習用の手頃な価格帯のものから始めて、上達してもっと良い音が欲しくなったら、本格的な笛にステップアップしていくのが一般的です。プラスチック製の篠笛なら数千円から、竹製の篠笛でも1万円前後から見つけることができます。まずは「始めてみる」ことが大切なので、ご自身の予算に合わせて、気軽に一歩を踏み出せるものを選びましょう。
横笛の吹き方・基本の「き」
いよいよ笛を手に入れたら、早速音を出してみましょう!最初はなかなか音が出なくて当たり前。焦らず、リラックスして挑戦してみてください。
まずは音を出してみよう!「プー」でもいい!
綺麗な音を出す前に、まずはどんな音でもいいので「音を出す」ことが第一歩です。ここでは篠笛を例に説明します。
構え方
背筋をすっと伸ばして、リラックスして立ちます(座ってもOKです)。笛の歌口(息を吹き込む穴)がある方を左側に、管の端(管頭)を左肩の延長線上くらいに持ってきます。左手の人差し指、中指、薬指で歌口に近い方の指孔を、右手の人差し指、中指、薬指、小指で遠い方の指孔を押さえる準備をします。このとき、肩や腕に力が入らないように注意しましょう。
唇の形(アンブシュア)
良い音を出すための最重要ポイントが、この唇の形(アンブシュア)です。鏡を見ながら練習するのがおすすめです。まずは唇の力を抜いて、軽く微笑むようなイメージで口角を少しだけ横に引きます。そして、ろうそくの火を「ふーっ」と細く長く吹き消すようなイメージで、唇の中央に小さな隙間を作ります。この形が基本です。下唇の中央、少し内側の湿っている部分を、歌口の手前のフチに軽く当てます。
息の出し方(腹式呼吸)
短く「フッ!」と吹くのではなく、お腹の底から、細く、長く、まっすぐな息を出すことを意識します。これが腹式呼吸です。最初は難しいかもしれませんが、息を吸うときにお腹が膨らみ、吐くときにへこむのを意識してみてください。そして、先ほど作った唇の形から、歌口の向こう側のフチ(エッジ)めがけて、細い息を吹き込みます。ビンの口を鳴らす「ホー」という音を出す要領に似ています。角度や息の強さを色々試していると、どこかで「ポー」とか「スー」という音が鳴るポイントが見つかるはずです。音が出なくても焦らないで!今日は出なくても、明日には出るかもしれません。気長に挑戦しましょう。
指使いと音階に挑戦
音が出るようになったら、次は指を動かして音階を吹いてみましょう。
指孔の押さえ方
指孔は、指の腹でしっかりと塞ぐことが大切です。爪を立てたり、指先だけで押さえたりすると、隙間から息が漏れてしまい、正しい音が出ません。指の第一関節と第二関節の間にある、一番柔らかい部分で、優しく、でも確実に孔を塞ぐイメージです。リラックスして、指が自然なカーブを描くように構えましょう。
基本的な運指
全ての指孔を塞いだ状態が一番低い音になります。そこから、歌口から一番遠い指孔(右手の小指)から順番に一つずつ指を離していくと、音がだんだん高くなっていきます。これが基本的な音階です。まずはゆっくり、一つ一つの音がしっかり出ているか確認しながら練習しましょう。最初は指がうまく動かないかもしれませんが、反復練習あるのみです!
音色を豊かにするテクニック
基本的な音階が吹けるようになったら、少しステップアップして、横笛らしい表現に挑戦してみましょう。
甲音(かんおん)と乙音(おつおん)
横笛には、大きく分けて2種類の音域があります。弱く優しい息で吹く低い音域を「乙音(おつおん)」、強く鋭い息で吹く高い音域を「甲音(かんおん)」と呼びます。同じ指使いでも、息のスピードや角度を変えるだけで、1オクターブ違う音が出るのです。最初は乙音を安定して出す練習をし、慣れてきたら、唇を少し締め、息のスピードを上げて甲音を出す練習に挑戦してみましょう。この乙音と甲音を自在に行き来できるようになると、演奏できる曲の幅がぐっと広がります。
装飾音(アタリ、打ち指など)
横笛の演奏を聴いていると、メインのメロディーの間に、短い装飾的な音が入っていることに気づくでしょう。例えば、ある音を出す瞬間に、一瞬だけ別の指孔を指で叩くように開閉する「打ち指」や、音を出す前に隣の孔を軽く指で弾くようにする「アタリ」といった技法があります。こうした装飾音が、横笛の音色に彩りと深みを与え、非常に日本的な情緒を生み出します。最初は難しいですが、少しずつ取り入れてみると、演奏が格段に「らしく」なりますよ。
大切な笛を長持ちさせる!お手入れと保管方法
お気に入りの笛と長く付き合っていくためには、日頃のお手入れがとても重要です。特にデリケートな竹製の笛は、愛情を持ってケアしてあげましょう。
演奏後のお手入れはマスト!
演奏後は、管の中に息に含まれる水分(唾液や結露)が溜まっています。これをそのままにしておくと、カビやひび割れの原因になってしまいます。演奏が終わったら、必ず管内の水分を拭き取りましょう。
お手入れには、「露通し(つゆとおし)」と呼ばれる専用の道具を使います。これは、長い紐の先に布(ガーゼなど)が付いたもので、管の中に通して水分を拭き取るためのものです。管頭の栓(龍笛や篠笛の左端に入っているもの)を傷つけないように、優しく通しましょう。露通しがない場合は、長い棒にガーゼを巻き付けたもので代用することもできます。最後に、笛の表面についた指紋や汚れを、柔らかく乾いた布(メガネ拭きなど)で優しく拭き取れば完了です。
笛が快適に過ごせる保管場所とは?
お手入れが終わった笛は、適切な場所に保管しましょう。横笛、特に竹製のものは、急激な温度変化や湿度の変化、そして直射日光が大の苦手です。暖房器具のすぐそばや、直射日光が当たる窓際、湿気の多い場所などは避けてください。保管する際は、裸のまま置いておくのではなく、専用の笛袋やケースに入れるのがおすすめです。これにより、ホコリや傷を防ぐだけでなく、急な環境変化からも笛を守ることができます。
竹製の笛ならではの特別なケア
竹製の笛は、特に冬場の乾燥した時期に「割れ」が生じやすいという弱点があります。これを防ぐために、定期的に油を塗って保湿してあげるケアがあります。一般的には、椿油(つばきあぶら)などの植物性の油を少量布に取り、笛の表面に薄く塗り込みます。塗りすぎはかえって笛を傷める原因になるので、本当にごく薄く、表面がうっすらと湿る程度で十分です。油を塗った後は、しばらく置いてから乾いた布で余分な油を拭き取ります。この一手間が、大切な笛を乾燥から守り、美しい状態を保つ秘訣です。
もっと横笛が楽しくなる!ステップアップの方法
一人で黙々と練習するのも楽しいですが、少し視野を広げると、横笛の世界はもっともっと楽しく、豊かになりますよ。
教室やサークルで仲間と学ぶ
独学で練習していると、どうしても壁にぶつかったり、モチベーションが続かなくなったりすることがあります。そんなときは、教室やサークルに通うのを検討してみてはいかがでしょうか。先生から直接指導を受けることで、自分では気づかなかった癖を直してもらえたり、効率的な練習方法を教えてもらえたりします。何より、同じ趣味を持つ仲間ができるのは大きな財産です。一緒に練習したり、合奏したりする楽しさは、一人では味わえないものです。地域の公民館やカルチャーセンター、個人の先生など、様々な選択肢がありますので、探してみてはいかがでしょうか。
様々な音楽ジャンルに挑戦してみよう
篠笛は、そのシンプルな構造ゆえに、非常に懐の深い楽器です。伝統的な民謡やお囃子はもちろんのこと、普段聴いているJ-POPや、映画音楽、アニメソングなどを吹いてみるのも楽しいですよ。楽譜がなくても、耳で聴いたメロディーを自分で探りながら吹いてみる「耳コピー」に挑戦するのも、良い練習になります。また、ピアノやギター、他のお琴や三味線といった和楽器など、他の楽器と一緒に演奏する「アンサンブル」も格別の楽しさがあります。自分の笛の音が、他の音と重なり合って一つの音楽になっていく感動は、一度味わうとやみつきになります。
プロの演奏に触れてみよう
上達のための一番の近道は、「良い音を知ること」です。演奏会やライブに足を運んで、プロの演奏を生で聴いてみましょう。CDや動画では伝わらない、息遣いや音の響き、そして表現の深さに圧倒されるはずです。「こんな音が出したい!」「こんな風に吹きたい!」という具体的な目標ができると、練習にもより一層熱が入ります。また、地域の祭りやイベントなど、アマチュアの人が演奏を発表する場もたくさんあります。身近な目標として、そういった場で演奏することを目指すのも素敵ですね。
自分に合った情報収集を
今や、横笛に関する情報は様々なところから手に入ります。自分のレベルや目的に合った教則本やDVDを探してみるのも良いでしょう。図や写真で分かりやすく解説されているものがたくさんあります。また、YouTubeなどの動画サイトには、国内外のたくさんのプレイヤーが演奏動画やレッスン動画をアップしています。運指やテクニックを映像で確認できるのは非常に便利です。自分のお気に入りの奏者を見つけるのも楽しいかもしれませんね。
まとめ
ここまで、横笛の魅力から種類、選び方、そして基本的な奏法や楽しみ方まで、駆け足でご紹介してきました。横笛は、一本の竹に息を吹き込むという、とてもシンプルな楽器です。しかし、そのシンプルさの中に、無限の表現の可能性と、日本の風土が育んだ奥深い文化が詰まっています。
最初は音を出すだけでも一苦労かもしれません。でも、焦る必要は全くありません。大切なのは、楽しむこと、そして自分の出した音に耳を傾けることです。昨日よりほんの少し長く音が伸ばせた、昨日よりほんの少し綺麗な音が出た。そんな小さな進歩を喜びながら、自分のペースでゆっくりと付き合っていくのが、横笛を楽しむ一番のコツです。
この記事が、あなたが横笛という素晴らしい世界への扉を開ける、ささやかなきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。さあ、あなたも日本の美しい音色を奏でる旅に出てみませんか?


