はじめに:ベースという楽器の魅力
バンドサウンドのドッシリとした土台を支え、楽曲全体に心地よいグルーヴと安定感をもたらす「ベース」。
低音の魅力に惹かれて「ベースを始めてみたい!」と思っている方も多いのではないでしょうか?
あるいは、すでにベースを弾いているけれど、もっと深く知りたい、もっと上手くなりたいと考えている経験者の方もいらっしゃるかもしれません。
ベースは、一見すると地味なパートに見えるかもしれませんが、実はバンドの心臓部とも言えるほど重要な役割を担っています。ドラムと共にリズムの骨格を作り、ギターやボーカルのメロディーをハーモニーの面から支える。そんな「縁の下の力持ち」的な存在ですが、ひとたび前に出れば、ファンキーなスラップ奏法で聴衆を沸かせたり、歌うようなフレージングで感動を与えたりと、非常に表現力豊かな楽器でもあるんです。
この記事では、そんな魅力あふれるベースという楽器について、これから始める初心者の方から、さらなるステップアップを目指す中級者・上級者の方まで、幅広く役立つ情報を網羅的にまとめました。
一つだけ、この記事の大きな特徴をお伝えさせてください。それは、特定の商品紹介やランキングを一切行わないということです。世の中には素晴らしいベースがたくさんありますが、この記事の目的は「この商品がおすすめです!」と紹介することではありません。そうではなく、ベースに関する普遍的な知識、練習方法、メンテナンスのノウハウといった、どんなベースを持っていても、どんな時代でも役立つ「お役立ち情報」だけを提供することに徹底的にこだわりました。
この記事を読めば、ベースという楽器の全体像が掴め、あなたがこれから何をすべきか、どう楽しんでいけば良いかの道しるべが見つかるはずです。さあ、一緒にベースの奥深い世界へ旅立ちましょう!
ベースの基本を知ろう
ベースの役割とは?バンドの「縁の下の力持ち」
ベースがバンドの中でどのような役割を果たしているか、具体的に見ていきましょう。これを理解すると、自分が弾くべきフレーズや練習の方向性が見えてきますよ。
リズムの土台を築く
ベースの最も重要な役割は、ドラムと一緒に楽曲のリズムの土台、つまり「リズム隊」を形成することです。バスドラムのタイミングに合わせてベースの音を鳴らすことで、楽曲に力強いビートと安定感が生まれます。聴いている人が自然と体を揺らしたくなるような「グルーヴ」は、まさにこのドラムとベースのコンビネーションから生み出されるのです。ベースラインがしっかりしていると、その上に乗るギターやボーカルも安心してプレイできるというわけですね。
ハーモニーの基礎を支える
もう一つの重要な役割が、ハーモニー(和音)の基礎を支えることです。楽曲には「コード進行」という和音の流れがありますが、ベースはそのコードの最も低い音、つまり「ルート音」を演奏することが基本となります。例えば、ギターが「C(ドミソ)」というコードを弾いている時に、ベースが「ド」の音を弾くことで、その場のコードが「Cである」ということを聴き手に明確に示します。このルート音がしっかりしているからこそ、メロディーやギターソロが自由に羽ばたけるのです。
メロディーとリズムを繋ぐ架け橋
ベースは単にルート音を弾くだけではありません。ルート音とルート音の間を繋ぐ音(経過音)を使って滑らかなフレーズを作ったり、時にはメロディアスなフレーズを弾いて楽曲を彩ったりもします。リズム楽器でありながら、音階を奏でることができるメロディー楽器としての側面も持っている。このリズムとメロディーの両方を繋ぐ架け橋のような存在であることも、ベースの大きな魅力と言えるでしょう。
エレキベースの各部名称と役割
自分の相棒となる楽器のことは、隅々まで知っておきたいですよね。ここでは、エレキベースの主要な各部分の名前と、その役割を解説します。
| 部分 | 名称 | 役割 |
| ヘッド | ペグ | 弦を巻き付けて、回すことで音の高さを調節(チューニング)するパーツです。 |
| ヘッド | ストリングガイド | 弦がナットから適切な角度でペグに向かうように押さえるためのパーツです。弦のテンション(張り)を保つ役割があります。 |
| ネック | ネック | ベースの首の部分全体を指します。握り心地や演奏性に大きく影響します。 |
| ネック | 指板(フィンガーボード) | ネックの表面に貼られた板で、ここに弦を指で押さえて音程を変えます。メイプルやローズウッドなどの木材が使われます。 |
| ネック | フレット | 指板に打ち込まれた金属の棒です。弦をフレットに押し当てることで、正確な音程が出せるようになっています。 |
| ネック | ナット | ヘッドとネックの境目にあるパーツで、弦を正しい位置に導く溝が切られています。開放弦(何も押さえない状態)の支点となります。 |
| ネック | ポジションマーク | 指板上にある丸や四角の印です。今、何フレットを押さえているのかを視覚的に分かりやすくしてくれます。 |
| ボディ | ボディ | ベースの胴体部分です。木材の種類や形状によって、音の響きや重さが変わります。 |
| ボディ | ピックアップ | 弦の振動を電気信号に変える、ベースの「マイク」のようなパーツです。このパーツの種類や位置で、サウンドキャラクターが大きく決まります。 |
| ボディ | ブリッジ | 弦をボディに固定するパーツです。弦の高さ(弦高)や、各弦のオクターブピッチを微調整する機能も持っています。 |
| ボディ | コントロールノブ | ボリューム(音量)やトーン(音質)を調整するためのツマミです。ピックアップの切り替えもここで行う場合があります。 |
| ボディ | アウトプットジャック | シールドケーブルを差し込む穴です。ここからアンプへと電気信号が送られます。 |
ベースの種類
エレキベースには、いくつかの代表的な種類(タイプ)があります。それぞれ見た目もサウンドも違うので、自分のやりたい音楽や好みに合わせて選ぶ際の参考にしてみてください。
ジャズベース(ジャズベ)タイプ
おそらく、最もポピュラーで多くのベーシストに愛用されているのがこのタイプです。名前の通り元々はジャズでの使用を想定して開発されましたが、今やロック、ポップス、ファンクなど、オールジャンルで活躍しています。
見た目の特徴は、左右非対称で少し曲線的なボディシェイプと、細長いピックアップが2つ搭載されている点です。ネックが比較的細めに作られていることが多く、手の小さい方でも握りやすいと感じるかもしれません。
サウンド面では、2つのピックアップの音量をそれぞれ独立して調整できるため、非常に幅広い音作りが可能です。フロントピックアップ(ネック側)を使えば丸く甘いサウンド、リアピックアップ(ブリッジ側)を使えば硬質で輪郭のはっきりしたサウンド、そして両方をミックスすればパワフルなサウンドと、変幻自在。このサウンドバリエーションの広さが、多くのジャンルで愛される理由の一つです。
プレシジョンベース(プレベ)タイプ
ジャズベースと並んで、エレキベースの二大巨頭と言えるのがこのプレシジョンベースタイプです。世界で初めて量産されたエレキベースとしても知られています。
見た目の特徴は、丸みを帯びたボディシェイプと、中央に配置された2つに分かれたピックアップです。ジャズベースに比べるとネックが少し太く、がっしりとした握り心地が特徴です。
サウンドは、一言で言うと「太くてパワフル」。ゴリっとしたアタック感と、存在感のある中低音が魅力で、特にロックバンドのベーシストに絶大な人気を誇ります。ピックで力強く弾いた時の「ブリブリ」としたドライブ感は、プレベならではのサウンドと言えるでしょう。構造がシンプルな分、音作りの幅はジャズベースほど広くありませんが、その分、迷いがなく、どんなアンサンブルの中でも埋もれない力強いサウンドを出すことができます。
多弦ベース(5弦、6弦など)
一般的なベースは4弦ですが、より低い音域や高い音域を求めて作られたのが多弦ベースです。最も一般的なのは、4弦の低音側にさらに低いB弦(シの音)を追加した5弦ベースです。
近年では、EDMやメタル、ジェントといったヘヴィな音楽ジャンルで、より重低音が求められることが多くなり、5弦ベースの需要は非常に高まっています。また、高い方にC弦(ドの音)を追加した6弦ベースは、ソロプレイやコード弾きなど、よりメロディアスな演奏を得意とするベーシストに好まれます。
弦が増える分、ネックの幅も広くなるため、演奏には慣れが必要ですが、表現の幅が格段に広がるのが大きなメリットです。
アコースティックベース(アコベ)
アコースティック・ベース、通称「アコベ」は、エレキベースとは異なり、ボディ内部が空洞になっているベースです。アコースティックギターのベース版と考えると分かりやすいでしょう。
最大の特徴は、アンプに繋がなくてもある程度の音量が出ることです。そのため、アンプラグド(電気を使わない)編成のライブや、自宅で気軽に練習したい場合に重宝します。サウンドは、木材の鳴りを活かした温かくナチュラルな響きが魅力です。ボディが大きいので少し抱えにくいかもしれませんが、独特の雰囲気とサウンドは他のベースでは得難いものです。
フレットレスベース
その名の通り、指板にフレットがないベースです。フレットという音程の区切りがないため、弦を押さえる位置が少しでもずれると音程がずれてしまいます。正確な音程で演奏するには高度な技術と良い耳が必要になる、上級者向けの楽器と言えるかもしれません。
しかし、その分、バイオリンやチェロのような滑らかな音の移動(グリッサンド)や、独特の「うねる」ようなサウンドを生み出すことができます。「ウォーン」という表現がよく使われる、あの甘く歌うようなトーンはフレットレスベースならではの魅力です。ジャズやフュージョンの分野で特に愛用されています。
ベースの選び方(心構え編)
さあ、いよいよベースを選ぶ段階です。しかし、ここでは「このスペックのベースを買いましょう」という話はしません。あなたにとって最高の1本を見つけるための「心構え」や「着眼点」についてお話しします。
見た目で選ぶ!モチベーションが一番大事
初心者の方がベースを選ぶ上で、最も重要と言っても過言ではないのが「見た目」です。スペックや木材の種類、サウンドの違いなど、最初はよく分からなくて当然です。それよりも、「うわ、この形カッコいい!」「この色が好き!」という直感的な気持ちを大切にしてください。
なぜなら、楽器の上達には日々の練習が欠かせませんが、その練習を続けるための最大の原動力は「モチベーション」だからです。自分が心から「カッコいい」と思えるベースなら、毎日でも触りたくなりますし、ケースから出すたびにテンションが上がります。憧れのアーティストが使っているのと同じ形や色のベースを持つだけで、まるで自分も上手くなったような気分になれて、練習にも熱が入るものです。
細かいことは後からいくらでもついてきます。まずは、あなたの心をときめかせてくれる、最高のルックスを持った1本を探すことから始めてみましょう。
音で選ぶ!どんな音楽を弾きたいか
見た目と同じくらい大事なのが「音」です。あなたがどんな音楽を弾いてみたいかによって、選ぶべきベースのタイプも見えてきます。
例えば、
- 激しいロックやパンクが好きなら、太くてパワフルなプレシジョンベースタイプが合うかもしれません。
- おしゃれなポップスやテクニカルなファンクをやりたいなら、音作りの幅が広いジャズベースタイプが活躍しそうです。
- 現代的なヘヴィメタルを演奏したいなら、5弦ベースが必須になるかもしれません。
もちろん、これはあくまで一般的な傾向です。プレシジョンベースでファンクをやる凄腕ベーシストもいれば、ジャズベースでゴリゴリのロックを弾く人もいます。
一番良いのは、楽器店で実際に試奏させてもらうことです。店員さんにお願いすれば、快くアンプに繋いでくれます。最初は何も弾けなくても構いません。「ドレミファソラシド」でも、知っている曲のワンフレーズでも良いので、とにかく音を出してみてください。見た目は好きだったけど音がイメージと違った、あるいは、ノーマークだったベースの音がすごく気に入った、なんて発見が必ずあります。百聞は一見に如かず、ならぬ「百見は一奏に如かず」です。
演奏性で選ぶ!自分の体に合うか
長く付き合っていく相棒ですから、弾きやすさ、つまり「演奏性」も非常に重要なポイントです。これは、あなたの体の大きさや手のサイズにも関係してきます。
ネックの太さや形状
ベースのネックは、薄いものから太いもの、丸いものから平たいものまで様々です。実際に握ってみて、自分の手にしっくりくるものを選びましょう。手が小さいから細いネックが良い、とは一概には言えず、太いネックの方がかえって安定して握りやすいと感じる人もいます。
ボディの重さやバランス
ベースは立って演奏することも多い楽器です。長時間ストラップで肩から下げていても疲れないか、重さを確認しましょう。また、ヘッド側が重くて手を離すとネックが下がってしまう「ヘッド落ち」という現象が起きるベースもあります。ストラップを付けて構えてみて、バランスが良いかどうかもチェックしたいポイントです。
スケール(弦長)
スケールとは、ナットからブリッジまでの弦の長さのことです。最も一般的なのは「ロングスケール」ですが、それよりも少し短い「ミディアムスケール」や、さらに短い「ショートスケール」のベースもあります。スケールが短いとフレット間の距離も狭くなるため、手が小さい方や女性でも運指がしやすくなるというメリットがあります。ただし、スケールが短くなると弦のテンションが緩くなり、サウンドが少しルーズになる傾向もあります。これも実際に弾き比べてみるのが一番です。
ベースを始めるために必要なもの
お気に入りのベースを手に入れたら、次にそれを音を出すための機材や、練習に役立つアイテムを揃えましょう。ここでは、ベース本体以外に必要になるものをリストアップします。
ベース本体以外に必要な機材
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ベースアンプ
ベースの音を増幅してスピーカーから出すための機材です。エレキベースは、これがないとまともな音が出ません。自宅練習用の小型のものから、スタジオやライブハウスで使う大型のものまで様々です。最初は10W〜30W程度の自宅練習用アンプがあれば十分でしょう。ヘッドホン端子がついているモデルを選ぶと、夜間でも周りを気にせず練習できます。 -
シールドケーブル
ベースとアンプを繋ぐためのケーブルです。長さは、自宅で使うなら3m、スタジオやライブで動き回ることを考えるなら5m〜7m程度のものが一般的です。消耗品でもあるので、あまりに安価なものは断線などのトラブルが起きやすいかもしれません。 -
チューナー
ベースの音程を合わせる(チューニングする)ための必需品です。毎回正確な音程で練習することが上達への近道。ベースのヘッドに挟んで使うクリップ式が手軽で人気ですが、足元に置いて使うペダル式や、スマホのアプリなどもあります。 -
ストラップ
立って演奏するために、ベースを肩から下げるためのベルトです。様々なデザインや素材のものがありますので、ベースの色や自分のファッションに合わせて選ぶのも楽しいですね。幅が広いものの方が、肩への負担が少ない傾向があります。 -
ピック
もしピック弾きをしたいのであれば必要になります。指で弾く「指弾き」とはまた違った、硬質でアタック感の強いサウンドになります。形(ティアドロップ型、おにぎり型など)や硬さ、素材によって弾き心地やサウンドが変わるので、色々な種類を試して自分に合うものを見つけるのがおすすめです。1枚100円程度から購入できます。 -
交換用の弦
弦は消耗品です。弾いているうちに錆びたり、伸びて音が悪くなったりします。いざという時に困らないように、予備の弦を1セットは持っておくと安心です。 -
ベースケース
ベースを購入すると、ほとんどの場合ソフトケースが付属してきます。持ち運びにはそれで十分ですが、衝撃から楽器をしっかり守りたい場合は、クッションが厚いギグバッグや、ハードケースの購入を検討しても良いでしょう。 -
ベーススタンド
練習の合間などにベースを立てかけておくためのスタンドです。壁に立てかけておくと、倒してネックが折れてしまう…なんて悲劇も起こりかねません。安全に保管するためにも、ぜひ用意しておきたいアイテムです。
あると便利なアイテム
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メトロノーム
一定のテンポを刻んでくれる機械です。リズム感を鍛える上で、これほど役立つものはありません。基礎練習は必ずメトロノームに合わせて行うクセをつけましょう。これもチューナー同様、専用の機器のほか、スマホアプリもたくさんあります。 -
教則本・DVD・オンラインレッスン
独学で進めるのが不安な方は、教則本などを活用するのがおすすめです。基本的な弾き方から練習フレーズ、簡単な曲の楽譜(TAB譜)まで、体系的に学ぶことができます。最近ではYouTubeなどにも優れたレッスン動画がたくさんありますね。 -
メンテナンス用品
練習後に楽器を拭くためのクロスや、指板の乾燥を防ぐためのオイル、弦の滑りを良くする指板潤滑剤などがあります。大切な楽器を良いコンディションで保つために、少しずつ揃えていくと良いでしょう。 -
ヘッドホン
ベースアンプにヘッドホン端子があれば、夜間でも気兼ねなく練習ができます。ベースは低音楽器なので、スピーカーから出すと思った以上に音が響きます。集合住宅にお住まいの方は特に、持っておくと重宝します。 -
エフェクター
ベースの音に様々な効果を加える機材です。音を歪ませたり、揺らしたり、音の粒を揃えたりと、その効果は多種多様。音作りの幅が格段に広がり、ベースを弾くのがもっと楽しくなります。最初は必要ありませんが、慣れてきたらぜひ試してみてください。
ベースの弾き方・練習方法
機材が揃ったら、いよいよ音を出してみましょう!ここでは、ベースを弾く上での基本的な構えから、初心者におすすめの練習方法までを解説します。
まずは基本姿勢から
正しいフォームで弾くことは、上達の早さや、体を痛めないためにも非常に重要です。
座って弾く場合
椅子に少し浅めに腰掛け、右足の太ももの上にベースのボディのくびれ部分を乗せます。このとき、ベースのヘッドが少し上を向くくらいの角度になるのが理想です。背筋を伸ばし、猫背にならないように気をつけましょう。右腕はボディの上に自然に乗せ、左手はネックを軽く握ります。
立って弾く場合
ストラップの長さを調節します。一般的には、座って弾いた時と同じくらいの高さにベースが来るように調整するのが良いとされています。低く構えるとかっこよく見えますが、あまり低すぎると左手首に負担がかかったり、弾きにくくなったりするので注意が必要です。自分にとって最も楽に弾ける高さを探しましょう。
チューニングを覚えよう
楽器を弾く前には、必ずチューニング(調弦)を行います。音が狂ったまま練習しても、正しい音感が身につきません。
最も一般的なレギュラーチューニングは、4弦(一番太い弦)から順に「E(ミ)、A(ラ)、D(レ)、G(ソ)」という音に合わせます。5弦ベースの場合は、これに低い「B(シ)」の弦が加わります。
チューナーを使って、それぞれの弦を正しい音に合わせましょう。チューナーの表示を見ながらペグを回します。音が高い場合はペグを緩め、低い場合は締めていきます。最初はどちらに回せば良いか戸惑うかもしれませんが、すぐに慣れます。ポイントは、目標の音より少し低い状態から、ゆっくりとペグを締めて音を上げていくことです。こうすることで、チューニングが安定しやすくなります。
弦の押さえ方とピッキング
左手(フィンガリング)
左手は、フレットのすぐそばを、指先でしっかりと弦を押さえます。このとき、指をなるべく立てるように意識しましょう。指が寝てしまうと、隣の弦に触れてしまい、音がキレイに鳴らなくなってしまいます。
また、弾いている弦以外の弦が勝手に鳴ってしまうのを防ぐ「ミュート(消音)」も非常に重要です。例えば、3弦を弾くときは、押さえている指の腹で4弦に軽く触れて音を止めたり、右手の親指を4弦に乗せてミュートしたりします。最初は難しいですが、クリアなサウンドを出すためには必須のテクニックです。
右手(ピッキング)
右手の弾き方には、主に「指弾き」と「ピック弾き」があります。
- 指弾き:人差し指と中指を交互に使って弦を弾く「ツーフィンガー奏法」が基本です。指の腹で弦を捉え、弾き抜くようなイメージです。ピックアップの上や、その少しブリッジ寄りの位置に親指を置いて手を固定すると、安定して弾くことができます。温かく丸いサウンドが特徴です。
- ピック弾き:ピックを親指と人差し指でしっかりと持ち、弦に対して平行に近い角度で当てて弾きます。手首のスナップを効かせるのがポイントです。硬質でアタックの強い、ロックなサウンドが得られます。
- スラップ奏法(チョッパー):親指で太い弦を叩きつけるように弾く「サムピング」と、人差し指や中指で細い弦を引っ張って指板に当てる「プリング(プル)」を組み合わせた、非常にパーカッシブで派手な奏法です。ファンクなどでよく使われます。
初心者におすすめの基礎練習
毎日少しずつでも良いので、基礎練習を続けることが上達への一番の近道です。必ずメトロノームを使いましょう!
運指練習(クロマチックスケール)
左手の指をスムーズに動かすための、最も基本的なトレーニングです。例えば、4弦の1フレットを人差し指、2フレットを中指、3フレットを薬指、4フレットを小指で順番に弾いていきます。これを4弦から1弦まで行い、今度は逆に1弦から4弦へ戻ります。ポイントは、一つ一つの音をしっかり鳴らすことと、リズムをキープすることです。ゆっくりなテンポから始めて、徐々にスピードを上げていきましょう。
リズム練習(ルート音弾き)
メトロノームが鳴らす「カッ、カッ、カッ、カッ」という音に合わせて、ベースの音を鳴らす練習です。最初は4分音符(1拍に1回)、慣れてきたら8分音符(1拍に2回)で弾いてみましょう。これが、バンドでドラムに合わせるための基礎になります。使う音はどの音でも構いません。まずは、タイミングを合わせることに集中しましょう。
スケール(音階)練習
「ドレミファソラシド」といった音階を弾く練習です。指板上のどこにどの音があるのか(ポジション)を覚えるのに役立ちます。まずは、最も基本的な「メジャースケール」と「マイナースケール」の指の形を覚えて、色々なポジションで弾けるように練習してみましょう。これが弾けると、簡単なアドリブ(即興演奏)にも繋がっていきます。
耳コピに挑戦してみよう
基礎練習と並行して、ぜひ挑戦してほしいのが「耳コピ」です。耳コピとは、楽譜を見ずに、音源を聴いてその曲のベースラインをコピーすることです。
最初は難しく感じるかもしれませんが、耳コピを繰り返すことで、音感やリズム感が飛躍的に向上します。また、プロのベーシストがどんなフレーズを弾いているのかを知る、最高の勉強にもなります。
まずは、自分が大好きな、比較的簡単な曲から始めてみましょう。最初は1音だけでも、ワンフレーズだけでも構いません。「あ、今の音はこれだ!」と分かった時の喜びは格別です。最近では、音源の再生速度を落としたり、特定の区間をループ再生したりできる便利なアプリやソフトもあるので、そういったものを活用するのも良いでしょう。
音作り(サウンドメイク)の基本
ベースの音は、弾き方だけでなく、楽器本体やアンプのツマミを調整することでも大きく変化します。自分好みの音を作る「サウンドメイク」も、ベースの大きな楽しみの一つです。
ベース本体での音作り
まずは、手元のベースでどんな音作りができるのか見てみましょう。
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ピックアップの選択
ジャズベースタイプのようにピックアップが2つある場合、どちらのピックアップの音を、どのくらいの割合で出力するかを調整できます。一般的に、ネック側のフロントピックアップは甘く太い音、ブリッジ側のリアピックアップは硬く輪郭のはっきりした音になります。両方をフルで鳴らすと、パワフルでバランスの取れたサウンドになります。このブレンド具合で、サウンドのキャラクターが大きく変わります。 -
トーンコントロール
多くのベースには「トーン」というツマミが付いています。これを絞る(反時計回りに回す)と、高音域がカットされ、モコモコとした丸い、甘いサウンドになります。逆に全開(時計回りに回す)にすると、高音域が強調された、ジャキっとした明るいサウンドになります。曲調やフレーズに合わせて調整してみましょう。 -
ボリュームコントロール
音量を調整するツマミです。ピックアップごとに独立している場合と、全体の音量を調整するマスターボリュームがある場合があります。
アンプでの音作り
アンプには、音質を調整するための「イコライザー(EQ)」という機能が付いています。
イコライザー(EQ)の基本
一般的に、以下の3つのツマミが付いています。
- BASS(ベース/低音域):音の太さや迫力をコントロールします。上げすぎると音がブーミーになり、輪郭がぼやけてしまうので注意が必要です。
- MIDDLE(ミドル/中音域):音の「芯」や「抜け」を司る、非常に重要な帯域です。バンドアンサンブルの中でベースの存在感を出すには、このミドルをうまく調整することが鍵になります。
- TREBLE(トレブル/高音域):音の明るさや、アタック感をコントロールします。上げるとスラップ奏法などが映える一方、上げすぎると耳障りな音になることもあります。
まずは全てを真ん中(12時の方向)に設定し、そこから少しずつ動かして音の変化を確認するのがおすすめです。
ゲイン(GAIN)とボリューム(VOLUME/MASTER)の違い
アンプには「ゲイン」と「ボリューム」という2つのツマミがあることが多いです。ゲインは「入力レベル」を調整するツマミで、これを上げていくと音が歪み始め、ロックなドライブサウンドになります。一方、ボリューム(またはマスターボリューム)は「最終的な音量」を調整するツマミです。この2つのバランスで、クリーンなサウンドから歪んだサウンドまで作ることができます。
エフェクターを使ってみよう
ベースの音作りの世界をさらに広げてくれるのが「エフェクター」です。ここでは、ベーシストがよく使う代表的なエフェクターをいくつか紹介します。
コンプレッサー
入力された音の音量差を圧縮し、音の粒を揃えてくれるエフェクターです。指弾きでの音量のバラつきを抑えたり、スラップ奏法のアタック感を強調したりと、プロのベーシストの多くが常時使用していると言われるほど重要なエフェクターです。音を均一にすることで、アンサンブルの中でベースラインがより聴き取りやすくなる効果も期待できます。
プリアンプ/DI
音質を積極的に補正し、音作りの核となるエフェクターです。強力なイコライザー機能を備えているものが多く、ベース本体やアンプだけでは作れないような、緻密なサウンドメイクが可能です。また、DI(ダイレクトボックス)という、ベースの信号をミキサーに直接送るための機能を兼ね備えているものも多く、ライブやレコーディングの現場で非常に重宝します。
オーバードライブ/ディストーション
音を意図的に歪ませる(ひずませる)ためのエフェクターです。オーバードライブはアンプを大音量で鳴らした時のような、温かみのある自然な歪み、ディストーションはより激しく攻撃的な歪みを生み出します。ロックやメタルはもちろん、ポップスでも隠し味的に使われることがあります。
コーラス/フランジャー
音を微妙に揺らし、広がりや厚みを加える「空間系」と呼ばれるエフェクターです。コーラスは爽やかでキラキラした効果、フランジャーはより強烈な「ジェットサウンド」のようなうねりを生み出します。バラードのメロディアスなフレーズや、ベースソロなどで効果を発揮します。
オクターバー
弾いた音(原音)に対して、1オクターブ下の音や2オクターブ下の音を加えてくれるエフェクターです。これにより、まるでシンセベースのような、極太の重低音サウンドを作り出すことができます。ファンクやソウルミュージックで定番のテクニックです。
ベースのメンテナンス
大切な相棒であるベースと長く付き合っていくためには、日頃のメンテナンスが欠かせません。難しいことはありませんので、ぜひ習慣にしてください。
普段のメンテナンス
練習後にクロスで拭く
練習が終わったら、必ず楽器用のクロスでベース全体を優しく拭いてあげましょう。特に、汗や皮脂が付着しやすい弦、ネックの裏側、ボディは念入りに。これをやるだけで、弦の寿命が延び、金属パーツのサビを防ぐことができます。ほんの数分の手間ですが、効果は絶大です。
弦の交換
弦は消耗品です。錆びてきたり、チューニングが合いにくくなったり、音がこもってきたなと感じたら交換のサインです。交換の頻度は練習量や手の汗のかきやすさなど個人差がありますが、一般的には3ヶ月〜半年に1回が目安と言われます。弦交換の方法は、最初は難しく感じるかもしれませんが、何度かやればすぐに慣れます。やり方を解説した動画などもたくさんあるので、参考にしながら挑戦してみましょう。新しい弦に張り替えた時の、あのブライトで気持ちの良いサウンドは格別ですよ。
定期的なメンテナンス
普段の清掃に加えて、数ヶ月に一度は、もう少し突っ込んだメンテナンスも行えると理想的です。
ネックの反り調整
木材でできているネックは、季節による湿度や温度の変化で反ってしまうことがあります。弦の張力で順方向に反る「順反り」や、その逆の「逆反り」が起こると、弦高が高くなって弾きにくくなったり、特定のフレットで音が詰まる「ビビり」の原因になったりします。この反りを修正するのが、ネックの内部に仕込まれた「トラスロッド」という金属の棒です。専用のレンチで調整しますが、非常にデリケートな部分なので、自信がない場合は無理せずリペアショップにお願いするのが賢明です。
弦高調整
弦とフレットの間の隙間のことを「弦高」と呼びます。弦高は、ブリッジのサドルというパーツを上下させることで調整できます。弦高が低いと弾きやすいですが、低すぎるとビビりの原因になります。逆に高いと音に張りが出ますが、押さえるのに力が必要になります。自分の好みやプレイスタイルに合わせて、最適な高さに調整しましょう。
オクターブチューニング
開放弦の音と、12フレットを押さえた時の音(1オクターブ上の音)がぴったり合うように調整する作業です。これがずれていると、ハイポジション(ボディに近い方のフレット)で弾いた時に音痴に聞こえてしまいます。ブリッジのサドルを前後に動かして調整します。弦を交換した際には、必ずチェックしたい項目です。
リペアショップに相談するケース
自分で調整するのが不安な場合や、以下のようなトラブルが起きた場合は、専門家であるリペアショップに相談しましょう。
- ネック調整や弦高調整に自信がない。
- アンプに繋いでも音が出ない、または「ガリガリ」という酷いノイズが出る(電気系統のトラブルの可能性があります)。
- フレットがすり減ってきて、音のビビりが治らない(フレットのすり合わせや交換が必要かもしれません)。
- 楽器を落としてしまい、ネックやボディに大きな傷や割れができてしまった。
プロに任せることで、楽器が見違えるように弾きやすくなることも多々あります。いわば楽器の「お医者さん」ですね。信頼できるリペアショップを見つけておくと、いざという時に安心です。
ベーシストとしてステップアップするために
ベースの基本的な弾き方が身についてきたら、次のステップに進んでみましょう。音楽の楽しみ方は無限大です!
バンドを組んでみよう
一人で練習するのも楽しいですが、ベースという楽器の本当の楽しさは、他の楽器とアンサンブル(合奏)した時にこそ実感できます。ドラムのビートに自分のベースラインが乗っかり、その上にギターやボーカルが加わった時の興奮と一体感は、何物にも代えがたいものです。
学校の友人や、音楽サークル、あるいはインターネットのメンバー募集掲示板やSNSなどを利用して、一緒に音楽をやる仲間を探してみましょう。最初は上手くできなくても構いません。みんなで音を合わせる楽しさを、ぜひ体験してみてください。
音楽理論を少しだけ学んでみよう
「音楽理論」と聞くと、難しくて堅苦しいイメージがあるかもしれません。しかし、全てを完璧に理解する必要はありません。少しだけ理論を知っていると、ベースを弾くのがもっと楽しく、もっと自由になります。
例えば、「ルート音とコードトーン」の関係が分かると、ただルート音を弾くだけでなく、そのコードに合ったおしゃれなフレーズを自分で作れるようになります。また、「スケール」の知識があれば、曲のキーに合わせてアドリブでソロを弾くことも夢ではありません。
理論は、あなたを縛るルールではなく、音楽の世界をより深く楽しむための便利な「地図」のようなものです。興味が湧いたら、少しずつ勉強してみてはいかがでしょうか。
いろんなジャンルの音楽を聴こう
自分の好きなジャンルの音楽を聴き込むのはもちろん素晴らしいことですが、時には普段聴かないようなジャンルの音楽にも耳を傾けてみてください。
ロックしか聴かなかった人がジャズを聴いてみたり、ファンクしか聴かなかった人がラテン音楽を聴いてみたり。そこには、今まで知らなかったカッコいいベースラインや、面白いリズムのアイデアがたくさん詰まっています。
様々なグルーヴに触れることで、あなたのベーシストとしての引き出しは格段に増え、プレイの幅も広がっていくはずです。
まとめ
ベースは奥が深く、楽しい楽器
ここまで、ベースという楽器の魅力から、選び方、練習方法、メンテナンスに至るまで、本当にたくさんの情報をお届けしてきました。非常に長い記事になりましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
この記事で紹介したことは、広大で奥深いベースの世界の、ほんの入り口に過ぎません。しかし、ここにある知識は、あなたがこれからベースと共に歩んでいく上で、きっと道しるべとなってくれるはずです。
大切なのは、焦らず、他人と比べず、自分のペースで楽しむことです。昨日より今日、今日より明日、少しでもベースに触れる時間を作ること。その小さな積み重ねが、やがて大きな力となります。継続は力なり、です。
バンドのボトムを支える低音の心地よさ、ドラムと一体になってグルーヴを生み出す快感、そして時にはメロディアスに歌う表現力。ベースには、あなたの音楽ライフを豊かにしてくれる魅力が無限に詰まっています。
さあ、この記事を閉じたら、あなたの愛するベースを手に取ってみてください。そして、心ゆくまでその響きを楽しんでください。あなたのベースライフが、最高に楽しく、充実したものになることを心から願っています!


