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PAミキサー徹底解説!初心者でもわかる基本から応用まで

ライブハウスやイベント会場、スタジオなどで音響さんがたくさんのツマミがついた機械を操作しているのを見たことはありませんか? あれが「PAミキサー」です。「なんだか難しそう…」「自分には縁のない機材かも」なんて思っている方も多いかもしれません。でも、実はミキサーは音響システムの「心臓部」とも言える、とっても重要な役割を担っているんです。そして、その仕組みは一つ一つ見ていけば、決して理解できないものではありません。

この記事では、特定の商品を一切紹介することなく、純粋に「PAミキサーとは何か?」という疑問に答えるためのお役立ち情報だけを、できるだけわかりやすく、そして詳しく解説していきます。初心者の方が「ミキサーって面白いかも!」と思えるようになること、そして、すでにミキサーを使っている方が「なるほど、そういうことだったのか!」と知識を深められることを目指して書きました。

この記事を読めば、PAミキサーの基本的な役割から、アナログとデジタルの違い、各ツマミやフェーダーの機能、さらには実践的な使い方や、一歩進んだ応用テクニックまで、幅広く理解できるようになるはずです。専門用語も出てきますが、かみ砕いて説明するので安心してくださいね。さあ、一緒に音響の心臓部、PAミキサーの世界を探検しにいきましょう!

  1. PAミキサーって何?音響の心臓部を理解しよう
    1. ミキサーの役割とは?「混ぜる」だけじゃないんです!
    2. なぜミキサーが必要なの?
  2. ミキサーの種類を知ろう!アナログとデジタルの違い
    1. 昔ながらの直感操作!アナログミキサーの特徴
      1. メリット
      2. デメリット
    2. 現代の主流!多機能なデジタルミキサーの特徴
      1. メリット
      2. デメリット
    3. パワードミキサーという選択肢
  3. ミキサーの各部名称と機能を徹底マスター!
    1. 入力セクション(チャンネルストリップ)の旅
      1. インプット端子(マイク/ライン)
      2. ゲイン(GAIN)/ トリム(TRIM)
      3. イコライザー(EQ)
      4. AUX(オグジュアリー)センド
      5. パン(PAN)
      6. チャンネルフェーダー
      7. ミュート(MUTE)/ ONスイッチ
    2. 出力セクション(マスターセクション)の世界
      1. マスターフェーダー
      2. メインアウト端子
      3. レベルメーター
      4. ヘッドホンアウト
  4. 実践編!ミキサーの基本的な使い方ステップバイステップ
    1. STEP1:接続しよう
    2. STEP2:音を出してみよう
    3. STEP3:音質を調整しよう(EQの使い方)
      1. よくあるEQ調整の例
  5. 知っていると差がつく!ミキサーの便利機能と応用テクニック
    1. モニター環境を制す!AUXセンドの活用法
    2. 音に広がりと深みを!内蔵エフェクト(リバーブ・ディレイ)
    3. グループとバスを理解してミックスを効率化
    4. インサート端子って何に使うの?
  6. ミキサー選びで失敗しないための考え方
    1. 最重要ポイントは「入力チャンネル数」
    2. マイク入力はいくつ必要?
    3. アウトプット(出力系統)の数もチェック
    4. 使用する場所や規模を考える
  7. まとめ

PAミキサーって何?音響の心臓部を理解しよう

まずは基本中の基本、「PAミキサーって、そもそも何をするための機械なの?」というところから始めましょう。見た目の通り、たくさんの音を「混ぜる(ミックスする)」機械なのですが、その仕事はもっと奥深いものなんです。

ミキサーの役割とは?「混ぜる」だけじゃないんです!

PAミキサーの主な役割は、大きく分けて3つあります。それは「音量バランスの調整」「音質の補正」「音の行き先の決定(ルーティング)」です。この3つが、ミキサーが音響システムの司令塔と呼ばれる理由です。

  • 音量バランスの調整
    バンドのライブを想像してみてください。ボーカルのマイク、ギター、ベース、キーボード、ドラムの各マイク…たくさんの音源がありますよね。これらの音をそのままスピーカーから出すと、音が大きすぎたり小さすぎたり、ごちゃごちゃになってしまいます。ミキサーは、それぞれの音源の音量を個別に調整し、「ボーカルを一番大きく、ギターは少し控えめに」といったように、聞きやすい全体のバランスを作り出す役割を担います。
  • 音質の補正
    マイクや楽器から入力された音は、必ずしも理想的な音質とは限りません。声がこもって聞こえたり、楽器の音がキンキンしたりすることもあります。ミキサーには「イコライザー(EQ)」という機能がついており、音の高さごとに成分を調整して音質を補正することができます。「声の低い部分をスッキリさせて、高い部分をキラキラさせる」といった音作りが可能です。
  • 音の行き先の決定(ルーティング)
    ミキサーに入力された音は、メインスピーカー(客席用)に送られるだけではありません。ステージ上の演奏者が自分の音を聞くための「モニタースピーカー」や、音に響きを加える「エフェクター」、ライブを録音するための「レコーダー」など、様々な場所へ音を送る必要があります。どのチャンネルの音を、どこへ、どれくらいの音量で送るのか。この交通整理を行うのもミキサーの重要な仕事です。

なぜミキサーが必要なの?

もし、音源がマイク1本だけで、それをスピーカー1台から出すだけなら、もしかしたらミキサーは必要ないかもしれません。マイクを直接パワードスピーカー(アンプ内蔵スピーカー)に接続すれば音は出ますからね。

しかし、実際には複数の音源を扱う場面がほとんどです。例えば、アコースティックギターの弾き語りライブでも、「ボーカルマイク」と「ギターのライン(またはマイク)」という最低でも2つの音源があります。この2つの音のバランスを取るためには、ミキサーが不可欠です。

バンドになれば、入力チャンネルはさらに増えます。会議やセミナーでも、司会者用マイク、登壇者用マイク、パソコンの音声など、複数の音源をスムーズに切り替えたり、同時にバランス良く鳴らしたりするためにはミキサーが活躍します。つまり、複数の音をまとめて、聞きやすく、意図した通りにスピーカーから出力したい、そんなあらゆる場面でPAミキサーは必要とされるのです。

ミキサーの種類を知ろう!アナログとデジタルの違い

PAミキサーには、大きく分けて「アナログミキサー」「デジタルミキサー」の2種類があります。どちらにも長所と短所があり、用途や好みによって選ばれます。それぞれの特徴を理解して、自分にはどちらが向いているか考えてみるのも面白いですよ。

昔ながらの直感操作!アナログミキサーの特徴

アナログミキサーは、昔からあるタイプのミキサーです。入力された音声信号を、電気信号のまま物理的な回路で処理します。一番の特徴は、「ひとつのツマミやフェーダーが、ひとつの機能に直結している」ことです。そのため、今どの機能がどういう設定になっているかが一目瞭然で、非常に直感的に操作することができます。

メリット

  • 操作が直感的でわかりやすい
    音の流れが上から下へと物理的に配置されていることが多く、初心者でも「どこを触ればどの音が変わるか」を理解しやすいです。
  • 比較的安価なモデルが多い
    シンプルな構造のため、同程度のチャンネル数のデジタルミキサーに比べて価格が抑えめな傾向があります。
  • 電気的なトラブルが起きにくい
    複雑なプログラムで動いているわけではないので、フリーズしたりOSが起動しなかったりといったソフトウェア的なトラブルの心配がありません。

デメリット

  • 多機能になると筐体が大きくなる
    機能を追加するには物理的な回路やツマミが必要になるため、チャンネル数や機能が増えるほど、ミキサー本体が大きく、重くなります。
  • 設定の保存や呼び出しができない
    すべての設定はツマミやフェーダーの物理的な位置で決まります。そのため、一度作ったミックスバランスを保存して、後で瞬時に呼び出す、といったことはできません。イベントごとにセッティングを写真に撮っておく、なんていう涙ぐましい努力が必要になることも。
  • 内蔵エフェクトなどの機能が限定的
    リバーブなどの簡単なエフェクトを内蔵しているモデルもありますが、その種類やクオリティはデジタルミキサーに及ばないことが多いです。

現代の主流!多機能なデジタルミキサーの特徴

デジタルミキサーは、入力されたアナログ音声信号を一度デジタル信号に変換し、内部のDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)というコンピューターで処理します。これにより、一台のコンパクトな筐体に、アナログミキサーでは考えられないほど多くの機能を詰め込むことが可能になりました。

メリット

  • 省スペースで多機能
    一台でイコライザーはもちろん、コンプレッサー、ゲート、多種多様なエフェクトなどを各チャンネルに搭載していることが当たり前です。外部に機材を買い足さなくても、高度な音作りが完結します。
  • 設定の保存(シーンメモリー)と呼び出しが可能
    これが最大のメリットかもしれません。苦労して作ったミックス設定を「シーン」として丸ごと保存し、ボタンひとつで瞬時に呼び出すことができます。リハーサルで作った設定を本番で再現したり、複数のバンドが出演するイベントで転換時間を短縮したりするのに絶大な威力を発揮します。
  • 高品質なエフェクトを内蔵していることが多い
    定番のリバーブやディレイはもちろん、スタジオクオリティの様々なエフェクトが内蔵されており、音作りの幅が格段に広がります。
  • タブレットなどから遠隔操作できるモデルもある
    Wi-Fi経由でiPadなどのタブレット端末からミキサーのほぼすべての機能を遠隔操作できるモデルが増えています。これにより、客席側で実際に音を聞きながらバランスを調整するなど、理想的な環境でミキシングができます。

デメリット

  • 操作に慣れが必要な場合がある
    多機能な分、ディスプレイを見ながら階層を潜って目的のパラメーターを探す、といった操作が必要になることがあります。アナログミキサーのように「すべての機能が表に出ている」わけではないため、最初は戸惑うかもしれません。
  • アナログミキサーに比べて高価な傾向がある
    高性能なDSPやディスプレイなどを搭載しているため、同程度のチャンネル数のアナログミキサーよりは高価になることが一般的です。
  • メニュー階層が深く、目的の機能にたどり着くまで時間がかかることがある
    慣れてしまえば問題ありませんが、とっさに特定の機能を調整したいときに、メニューのどこにあるか思い出せず焦ってしまう、なんてこともあり得ます。

パワードミキサーという選択肢

アナログミキサーとデジタルミキサーの他に、「パワードミキサー」という種類も存在します。これは、ミキサーに「パワーアンプ」を内蔵した一体型のモデルです。

通常、ミキサーから出力された信号は、パワーアンプという機材で信号を増幅してからスピーカーに送られます。パワードミキサーは、このパワーアンプの役割も担ってくれるため、パワードミキサーとスピーカー(パッシブスピーカー)を直接スピーカーケーブルで繋ぐだけで音が出せるという手軽さが魅力です。

機材構成がシンプルになるため、設営や撤収が非常にスピーディーに行えます。小規模なカフェライブや会議、プレゼンテーション、学校行事など、手軽にPAシステムを組みたい場合に最適な選択肢と言えるでしょう。ただし、機能や拡張性は専用のミキサーとアンプの組み合わせには劣る場合が多いです。

ミキサーの各部名称と機能を徹底マスター!

さて、ここからはいよいよ、ミキサーの表面に並んだたくさんのツマミやボタンが、それぞれどんな役割を持っているのかを詳しく見ていきましょう。一見すると複雑に見えますが、実は同じ機能を持った部分が縦にズラッと並んでいるだけなんです。この縦一列のセットを「チャンネルストリップ」と呼びます。まずはこのチャンネルストリップの流れを理解することが、ミキサーをマスターするための最大の近道です!

入力セクション(チャンネルストリップ)の旅

1本のマイクや1台の楽器から入力された音声信号は、このチャンネルストリップを通って加工され、最終的にメインの出力へと送られます。信号は基本的に上から下へと流れていきます。その旅を一緒に追いかけてみましょう。

インプット端子(マイク/ライン)

チャンネルストリップの一番上には、音の入り口であるインプット端子があります。主に2種類の端子があります。

  • XLR端子(キャノン端子)
    3つのピンがある丸い形状の端子で、主にマイクを接続するために使います。バランス接続に対応しており、ノイズに強いのが特徴です。
  • TRS/TSフォーン端子
    ギターやキーボードなどを接続する、おなじみの端子です。TRS(先端が3極)はバランス接続、TS(先端が2極)はアンバランス接続に対応しています。

また、コンデンサーマイクという種類のマイクを使用する際には、「ファンタム電源(+48V)」という電気をミキサーから供給する必要があります。そのためのスイッチもこのインプットセクションに備わっていることが多いです。

ゲイン(GAIN)/ トリム(TRIM)

インプット端子のすぐ下にあるのが、「ゲイン(GAIN)」または「トリム(TRIM)」と呼ばれるツマミです。これは、ミキサーに入力された音の「素の音量」を調整する、非常に重要なツマミです。

マイクや楽器から送られてくる信号のレベルは、それぞれバラバラです。ささやくような声から大音量のギターアンプまで様々。ゲインは、これらの異なるレベルの信号を、ミキサーが最も扱いやすい適切な音量(適正レベル)に揃える役割を持っています。

ゲインが低すぎると、後のフェーダーを大きく上げても十分な音量が得られず、ノイズが目立つ原因になります。逆に高すぎると、「クリップ」または「ピーク」と呼ばれる音割れが発生し、歪んだ汚い音になってしまいます。一度歪んでしまった音は、後からフェーダーで音量を下げても元には戻りません。そのため、音作りはまず「適切なゲインを設定すること」から始まると言っても過言ではありません。

イコライザー(EQ)

ゲインで音量を整えたら、次はその音質を調整する「イコライザー(EQ)」セクションです。音を「高さ」でいくつかの帯域に分け、それぞれの帯域の音量を上げたり(ブースト)下げたり(カット)することができます。

一般的なミキサーでは、以下の3つの帯域を調整できるようになっています。

  • HIGH(ハイ/高域)
    シンバルの「シャーン」という音や、ボーカルの息遣いなど、音のキラキラした成分や明瞭度を司ります。上げすぎるとキンキンした耳障りな音になります。
  • MID(ミッド/中域)
    音の骨格や芯となる、最も重要な帯域です。ボーカルやギターの音の厚みは、この中域に集中しています。少し調整するだけで、音の印象がガラッと変わります。
  • LOW(ロー/低域)
    バスドラムの「ドン」という迫力や、ベースのうなるようなサウンドなど、音の土台となる部分です。上げすぎると音がこもったり、ブーミーになったりします。

機種によっては、MIDの周波数を細かく指定できる「パラメトリックイコライザー」が搭載されていることもあり、より緻密な音作りが可能です。

AUX(オグジュアリー)センド

「オックス」と読むことが多いこの「AUX」は、「補助」を意味する言葉です。その名の通り、メインの出力とは別に、各チャンネルの音を「補助的」に別の場所へ送るためのツマミです。

主な使い道は2つあります。

  1. 演奏者用のモニタースピーカーに音を送る
    ステージ上の演奏者は、客席に流れている音とは別に、自分が演奏しやすいように調整された音を聞く必要があります。例えば、ボーカリストは自分の声と伴奏の音を、ギタリストは自分のギターの音を大きめに聞きたい、といった具合です。AUXを使えば、チャンネルごとに「モニター用のミックスバランス」を個別に作って送ることができます。
  2. 外部エフェクターに音を送る
    ミキサーに内蔵されていない特別なリバーブやディレイなどのエフェクターを使いたい場合に、AUXから音を送り、エフェクターで処理された音をミキサーに戻してくる、という使い方をします。

AUXには「PRE」と「POST」という切り替えがある場合があります。「PRE」はチャンネルフェーダーを通る前の音を送るので、メインの音量を変えてもモニターの音量に影響しません(モニター用に最適)。「POST」はフェーダーを通った後の音を送るので、メインの音量を変えると送られる音量も変わります(エフェクト用に最適)。

パン(PAN)

「パン(PAN)」または「BAL(バランス)」と書かれたツマミは、そのチャンネルの音を、ステレオ空間の左右のどこに配置するかを決める役割を持っています。ツマミを左に回せば音は左のスピーカーから、右に回せば右のスピーカーから聞こえるようになります。中央にあれば、左右両方から均等に聞こえます。

例えば、バンドのステージ上の立ち位置に合わせて、ギターを少し左、キーボードを少し右、というようにパンを振ることで、音像が立体的になり、各楽器の音が聞き分けやすくなります。

チャンネルフェーダー

チャンネルストリップの一番下にある、上下にスライドさせるツマミが「チャンネルフェーダー」です。ゲイン、EQ、その他の処理を終えた、そのチャンネルの最終的な音量を調整します。

ミキシングの現場では、このチャンネルフェーダーを巧みに操作して、曲の展開に合わせてボーカルの音量を少し上げたり、ギターソロでギターの音量をぐっと持ち上げたりします。全体のミックスバランスを決定づける、花形のコントローラーです。

ミュート(MUTE)/ ONスイッチ

各チャンネルには、そのチャンネルの音を一時的にオン/オフするためのボタンがあります。「MUTE(ミュート)」ボタンは、押すとそのチャンネルの音だけが消えます。使っていないマイクの音を一時的に切っておくことで、不要なノイズが混入するのを防ぎます。逆に「ON」ボタンは、普段はオフになっていて、押している間だけ音が出るタイプもあります。

出力セクション(マスターセクション)の世界

各チャンネルストリップを旅してきた音は、最終的にこの「マスターセクション」に集められ、まとめられてからミキサーの外へと出力されます。

マスターフェーダー

通常、ミキサーの右端に配置されている、最も目立つフェーダーが「マスターフェーダー」です。多くの場合、赤や白など他のフェーダーとは違う色をしています。これは、すべてのチャンネルの音をまとめた後の、PAシステム全体の最終的な音量をコントロールする、最も重要なフェーダーです。ここを下げれば、すべての音が小さくなります。

メインアウト端子

マスターフェーダーで調整された最終的なミックス信号が出力される端子です。ここからパワーアンプやパワードスピーカーにケーブルを接続し、客席のスピーカーへと音を送ります。

レベルメーター

緑、黄、赤のLEDが縦に並んだ、信号の大きさを視覚的に表示するインジケーターです。出力されている全体の音量がどのくらいかを示しています。音量が小さいと緑、適正レベルに近づくと黄色、そして大きすぎると赤く光ります。この赤いランプは「PEAK」や「CLIP」と表示されており、音割れしているサインです。このランプが点灯し続けないようにマスターフェーダーで音量を調整することが重要です。

ヘッドホンアウト

ミキサーから出力されている音を、スピーカーからではなくヘッドホンで確認するための端子です。全体のバランスや、特定のチャンネルの音だけを細かくチェックしたい(これを「PFL」や「SOLO」機能と呼びます)ときに使います。周囲の騒音に影響されずに音を確認できるため、非常に重宝します。

実践編!ミキサーの基本的な使い方ステップバイステップ

各部の機能がわかったところで、いよいよ実践です。ここでは、ミキサーを使って実際に音を出すまでの基本的な手順を、ステップバイステップで見ていきましょう。特に、機材を接続したり電源を入れたりする順番は、機材を故障から守るためにも非常に重要なので、しっかり覚えてくださいね!

STEP1:接続しよう

まずは、マイクや楽器、スピーカーなどの機材をミキサーに接続していきます。このとき、すべての機材の電源は必ずオフの状態で行いましょう。また、ミキサーのすべてのツマミ、特にゲインとフェーダーが完全にゼロ(一番下)になっていることを確認してから始めると安全です。

  1. すべてのフェーダー、ゲイン、ボリュームがゼロになっていることを確認する
    これは鉄則です。不意に大きな音が出てスピーカーを飛ばしたり、耳を痛めたりするのを防ぎます。
  2. マイクや楽器をインプット端子に接続する
    ボーカルマイクはXLR端子へ、キーボードや音源プレーヤーはフォーン端子(ライン入力)へ、といった具合に、対応する入力チャンネルに接続します。
  3. ミキサーのメインアウトからパワーアンプ(またはパワードスピーカー)のインプットへ接続する
    ミキサーの最終的な出口(MAIN OUT)から、音を増幅する装置(パワーアンプ)の入り口(INPUT)へケーブルを繋ぎます。パワードスピーカーの場合は、直接スピーカーのINPUTに接続します。
  4. スピーカーケーブルでパワーアンプとスピーカーを接続する
    (パワードミキサーやパワードスピーカーを使わない場合)パワーアンプの出力を、スピーカーの入力へスピーカーケーブルで接続します。
  5. すべての機材の電源コードをコンセントに接続する
    すべてのケーブル接続が終わったら、各機材の電源ケーブルを接続します。まだ電源スイッチは入れませんよ!

STEP2:音を出してみよう

すべてのケーブル接続が完了したら、いよいよ電源を入れて音を出していきます。ここでも「電源を入れる順番」と「切る順番」が非常に重要です。覚えやすい合言葉は「電源は、音の出口から入れて、入口から切る」です。こうすることで、電源投入時の「ボンッ!」というポップノイズでスピーカーを傷めるのを防ぐことができます。

  1. ミキサーの電源を入れる
    まず、音の信号が一番最初に通る、心臓部のミキサーの電源をオンにします。
  2. パワーアンプの電源を入れる
    次に、音の最終出口であるパワーアンプの電源をオンにします。(電源を切るときはこの逆で、パワーアンプ → ミキサーの順番で切ります)
  3. 音を出したいチャンネルのフェーダーとマスターフェーダーを「0dB」(ユニティゲイン)あたりまで上げる
    多くのフェーダーには「0」や「U」と書かれた印があります。これは「ユニティゲイン」と言って、信号を増幅も減衰もさせない基準の位置です。まずはこの位置まで上げておくのがセオリーです。
  4. マイクに向かって声を出したり、楽器を鳴らしたりしながら、ゲイン(GAIN)をゆっくり上げていく
    ここが最重要ポイントです! 実際に音を出しながら、そのチャンネルのゲインのツマミを少しずつ、本当に少しずつ上げていきます。
  5. チャンネルのレベルメーターが時々オレンジに触れるくらい、ピークランプが点灯しないギリギリに調整する
    ゲインを上げていくと、チャンネルストリップにあるレベルメーター(またはPEAK/CLIPランプ)が反応し始めます。一番大きな音を出したときに、一瞬だけオレンジ(または黄色)のランプが点灯するくらいが理想です。赤のPEAKランプが絶対に点灯し続けないように注意してください。これが「適正なゲイン」です!
  6. 複数の音源がある場合は、チャンネルフェーダーでそれぞれの音量バランスを調整する
    すべての入力チャンネルで適正なゲインが設定できたら、あとはチャンネルフェーダーを使って、ボーカルと楽器のバランスなど、全体の聞こえ方を調整していきます。ここがミキシングの楽しいところですね!

STEP3:音質を調整しよう(EQの使い方)

無事に音が出て、全体のバランスも取れてきたら、次は各パートの音質をより聞きやすく、音楽的に整えていきましょう。イコライザー(EQ)の出番です。EQ調整の基本的な考え方は、「足し算より引き算」です。つまり、何かを持ち上げて(ブースト)強調するよりも、まず不要な帯域を削って(カット)スッキリさせることから始めるのが成功の秘訣です。

よくあるEQ調整の例

EQの調整に絶対の正解はありませんが、ここでは一般的な調整のヒントをいくつか紹介します。これを参考に、自分の耳で音の変化を感じながら試してみてください。

対象 目的 調整のヒント
ボーカル 声の抜けを良くしたい、こもりを取りたい まずLOWを少しカット(100-200Hzあたり)して、不要なこもり成分を取り除きます。これだけで声がスッキリすることが多いです。次に、言葉の明瞭度に関わるHIGH-MID(2-4kHzあたり)や、空気感に関わるHIGH(8kHz以上)を少しだけブーストすると、声が前に出てきて抜けが良くなります。
アコースティックギター 低音の膨らみを抑え、キラキラ感を出したい ボディの鳴りが大きすぎると低音が「ブーン」と膨らんでしまうことがあります。LOW~LOW-MID(150-300Hzあたり)を少しカットすると、スッキリしたサウンドになります。弦のきらびやかさが欲しい場合は、HIGH(10kHzあたり)を少しブーストしてみましょう。
ベースギター 輪郭をはっきりさせ、他の楽器に埋もれないようにしたい ベースの音の芯はLOW-MID(200-500Hzあたり)にありますが、ここが他の楽器と被ると音が濁る原因になります。少しカットするとスッキリします。指やピックが弦に当たるアタック音(輪郭)はHIGH-MID(1-3kHzあたり)にあるので、ここを少しブーストすると、フレーズが聞こえやすくなります。
キックドラム(バスドラム) 迫力のある「ドン!」と、アタック感のある「カッ!」がほしい まず、いわゆる「箱鳴り」と言われる不要な中音域(300-600Hzあたり)を思い切ってカットします。そして、お腹に響くような迫力(LOW、60-80Hzあたり)と、ビーターがヘッドに当たるアタック音(HIGH-MID、3-5kHzあたり)をブーストすると、モダンでパワフルなキックサウンドになります。

知っていると差がつく!ミキサーの便利機能と応用テクニック

基本的な音出しと音作りができるようになったら、もう初心者卒業は目前です! ここでは、ミキサーが持つさらに便利な機能や、一歩進んだ使い方を紹介します。これらを使いこなせれば、より快適でクオリティの高い音響操作が可能になりますよ。

モニター環境を制す!AUXセンドの活用法

ライブの成功は、ステージ上の演奏者がいかに気持ちよく演奏できるかにかかっています。そのためには、演奏者自身が聞く音(モニター音)の環境作りが極めて重要です。ここで大活躍するのが「AUXセンド」です。

客席向けのメインのミックスバランスは、ボーカルが一番大きく、楽器はそれに合わせてバランスを取るのが一般的です。しかし、ギタリストは自分のギターの音とボーカルの音を、ドラマーはベースとキックの音をしっかり聞きたい、といったように、演奏者ごとに「聞きたい音のバランス」は異なります。

AUXセンドを使えば、メインのフェーダーとは独立して、各チャンネルの音をモニタースピーカー(通称:コロガシ)に送る音量を調整できます。例えば、「AUX 1」をボーカル用モニター、「AUX 2」をギタリスト用モニター、というように設定し、それぞれのAUXツマミで各演奏者が求めるミックスを作ってあげるのです。これを「モニターミックスを作る」と言います。良いモニターミックスは、演奏のクオリティを格段に向上させる力を持っています。

音に広がりと深みを!内蔵エフェクト(リバーブ・ディレイ)

特にデジタルミキサーには、高品質な空間系エフェクトが内蔵されていることが多く、これを使わない手はありません。代表的なものは「リバーブ」「ディレイ」です。

  • リバーブ
    お風呂場やホールで声が響くような、残響音を加えるエフェクトです。ボーカルに薄くかけるだけで、声がオケに馴染み、プロっぽい仕上がりになります。かけすぎると音がぼやけてしまうので、「ちょっと物足りないかな?」くらいが丁度良いことが多いです。
  • ディレイ
    「やまびこ」のように、音が遅れて繰り返される効果を生むエフェクトです。曲のテンポに合わせたディレイをボーカルにかけると、楽曲に広がりや奥行きが生まれます。

これらの内蔵エフェクトは、通常、AUXセンド(POSTフェーダー設定)を使って音を送り、エフェクト処理された音を専用のリターンチャンネル(RETURN)やステレオ入力チャンネルで受けて、メインの音に混ぜ込む、という使い方をします。

グループとバスを理解してミックスを効率化

少し規模の大きいミキサーになると、「グループ(サブグループ)」「バス」という機能が搭載されています。これは、複数のチャンネルをまとめて一つのフェーダーでコントロールするための機能です。

例えば、ドラムキットにはキック、スネア、タム、シンバルなど、たくさんのマイクを使いますよね。これらのチャンネルをすべて「ドラムグループ」に割り当てておけば、そのグループフェーダーを一つ上下させるだけで、ドラム全体の音量を簡単に調整できます。ボーカルが複数の場合や、コーラスパートをまとめるのにも便利です。

さらに、グループバスにコンプレッサーなどのエフェクトをかける(バスコンプ)ことで、パート全体に一体感を持たせる、といったプロフェッショナルなテクニックも可能になります。ミックス作業の効率化とクオリティアップに繋がる非常に便利な機能です。

インサート端子って何に使うの?

チャンネルストリップをよく見ると、「INSERT」と書かれた端子があることがあります。これは、特定のチャンネルの信号の流れに、外部のエフェクターを「割り込ませる」ための端子です。

AUXセンドが、元の音を残しつつエフェクト音を「加える」使い方(センド&リターン)なのに対し、インサートは、信号が一度ミキサーの外に出て、エフェクターを「通過」してからミキサー内に戻ってくる、という流れになります。

主に、音の粒を揃える「コンプレッサー」や、特定の周波数だけをピンポイントで調整する「グラフィックイコライザー」など、そのチャンネルの音そのものを積極的に変化させたい場合に用います。例えば、「ボーカルチャンネルにだけ、特別なコンプレッサーをかけたい」といった高度な要求に応えるための機能です。

ミキサー選びで失敗しないための考え方

この記事では特定の商品の紹介はしませんが、これから自分のミキサーを手に入れたいと考えている方のために、どのような視点で選べば良いのか、その「考え方」のヒントをお伝えします。スペック表の数字だけを見るのではなく、自分の使い方を具体的に想像することが、最適な一台を見つけるための鍵となります。

最重要ポイントは「入力チャンネル数」

ミキサー選びで最初に考えるべき、そして最も重要なのが「入力チャンネル数」です。これは、ミキサーに同時に接続できるマイクや楽器の最大数を表します。

まずは、自分のやりたいことで、最大何チャンネル必要になるかを具体的にリストアップしてみましょう。

  • 例1:アコギ弾き語り → ボーカルマイク(1ch) + ギター(1ch) = 合計2ch
  • 例2:キーボード弾き語り → ボーカルマイク(1ch) + キーボード(ステレオ2ch) = 合計3ch
  • 例3:3ピースバンド → ボーカル(1ch) + ギター(1ch) + ベース(1ch) + ドラム(キックとスネアとトップで最低3ch) = 合計6ch

ここで注意したいのは、キーボードや音源プレーヤーなどのステレオ音源は、左右で2チャンネル分を消費するということです。また、必要なチャンネル数ピッタリのものを選ぶのではなく、将来的にメンバーが増えたり、使うマイクが増えたりする可能性を考えて、2~4チャンネルほど余裕のあるモデルを選んでおくと後々困ることが少なくなります。

マイク入力はいくつ必要?

入力チャンネル数全体だけでなく、そのうち「マイク入力(XLR端子)がいくつあるか」も重要なチェックポイントです。安価な小型ミキサーの中には、入力チャンネル数は多いものの、マイク入力は最初の1~2チャンネルだけで、残りはライン入力(フォーン端子)のみ、というモデルもあります。

ボーカル、アコースティック楽器の集音、ドラムのマイキングなど、マイクを使いたい本数をあらかじめ数えておき、それに見合った数のマイク入力(とファンタム電源)を備えたミキサーを選ぶようにしましょう。

アウトプット(出力系統)の数もチェック

音の入り口(インプット)だけでなく、音の出口(アウトプット)がどれだけあるかも確認しましょう。客席用のメインスピーカーに出力する「MAIN OUT」は必ずありますが、それ以外にどのような出力が必要かを考えます。

先ほど解説した、演奏者用のモニタースピーカーを使いたいのであれば、その系統数ぶんの「AUX OUT」端子が必要です。また、ライブを録音したいのであれば、メインの出力とは別にレベル調整できる「REC OUT」や「2TR OUT」といった端子があると便利です。自分がやりたいことに必要な出力系統が備わっているか、事前に確認しておきましょう。

使用する場所や規模を考える

最後に、そのミキサーをどこで、どのように使うのかを具体的にイメージします。

  • 持ち運びの頻度
    毎回ライブハウスや練習スタジオに持ち運ぶのであれば、コンパクトで軽量なものが有利です。自宅や固定設備として使うのであれば、多少大きくても操作性の良いものが良いかもしれません。
  • 操作性
    音響に不慣れな人でも操作する必要があるなら、直感的なアナログミキサーが向いているかもしれません。一方で、毎回同じセッティングを素早く再現したいなら、シーンメモリー機能のあるデジタルミキサーが圧倒的に便利です。
  • 将来の拡張性
    今は弾き語りだけれど、いずれはバンドを組みたい。今は内蔵エフェクトで十分だけど、ゆくゆくはこだわりの外部エフェクターも使ってみたい。そんな将来の夢があるなら、少し背伸びしてでも拡張性の高いミキサーを選んでおく、というのも一つの考え方です。

これらの要素を総合的に考えて、自分の「やりたいこと」と「使い方」に最もフィットするミキサーの仕様を絞り込んでいく。これが、商品名や価格に惑わされずに、自分にとって最適な一台と出会うための賢いアプローチです。

まとめ

今回は、PAの心臓部である「ミキサー」について、その役割から種類、各部の機能、実践的な使い方、そして選び方の考え方まで、幅広く掘り下げてみました。たくさんのツマミやボタンに圧倒されていた方も、それぞれの役割と音の流れがイメージできるようになったのではないでしょうか。

ミキサーは、ただ音を混ぜるだけの機械ではなく、音量や音質、音の行き先をコントロールし、音楽やイベント全体のクオリティを決定づけるクリエイティブなツールです。最初は難しく感じるかもしれませんが、この記事で解説した基本的な知識を土台にして、ぜひ実際に機材に触れてみてください。一つ一つのツマミを回したときの音の変化を自分の耳で確かめる、その経験の積み重ねが、何よりの上達への近道です。

良い音は、良い演奏や良いプレゼンテーションをさらに輝かせます。この記事が、あなたがPAミキサーと仲良くなり、音作りの楽しさ、奥深さを知るきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。

この記事を書いた人
バナナギターズ

楽器店をふらっと歩くのが趣味で、「この楽器なんだ?」と思ったらとりあえず買ってみる派。
上手に弾けることより、「楽しそう」を優先するスタンスで、ゆるっと楽器紹介をしています。

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